Ilmakitaransoiton MM

世界大会の様子

エアギター世界大会

2006年9月8日金曜日

フィンランドはヨーロッパで最もアメリカナイズされた国なんだそうです。ファーストフードの消費が多く、アメリカ映画を沢山見て、大型マーケットに車でやってきて買い物をし、町のどこでも英語が通じる。でも、私が思うフィンランド人の最も「アメリカナイズ」されているところは、「すぐに世界を語る」所。ただし、アメリカ人がAmerican Standard というとこれを意味するので、すぐにWorld Standardという言葉を使って、世界中から嫌がられているのとは対照的に、フィンランド人の「世界」MMは、世界中の人を引きつけてやみません。フィンランド語でMM(Maailman Mestaruus)とは、世界選手権のこと。フィンランドには「よくぞこんな事思いついたよなぁ」という世界大会がごろごろあります。イタリア人の友人の話だと、何でもアメリカの新聞で取り上げられた世界十大お馬鹿世界大会のうち、半分の五つをフィンランドの大会が占めていたとか。その想像力には脱帽です。

ざっと有名なところを挙げてみると...

2004年に笑福亭鶴瓶が参戦したサウナ耐久世界選手権(Löylyn-MM)(Heinola)、110度のサウナに何分入れるかを競います。

日本のテレビコマーシャルにも取り上げられた嫁担ぎ世界選手権(Eukonkanto-MM)(Sonkajärvi)、ここ5年間エストニアのカップルが優勝していてフィンランド人には苛々が募っています(Wikipediaに写真があります)。

携帯電話投げコンテスト(Kännykänheiton-MM) (Savonlinna)、各種ニュースでは今年フィンランド人Mikko Lampiが94.97mを投げて世界新記録を樹立したと書かれています。「槍を投げて練習した、携帯はこれまで投げたことはない」という優勝者の弁が、いかにも槍投げの強いフィンランドという感じ。

カラオケ世界選手権(Karaoke-MM)(Heinola)、日本は「競争はカラオケの精神に反する」と言うことで参加しないんだとか。流石イグノーベル賞を取る人々は言うことが違いますねぇ。

そのほかにも、水中走世界選手権(Petäjävesi)ゴム長靴投げ世界選手権(フィンランド国内を転戦)泥んこバレーボール世界選手権(Haukivuori)泥んこサッカー世界選手権(Kainuu)ベリー詰み世界選手権(Suomussalmi)芝刈り世界選手権(Liminka)蚊叩き世界選手権(Pelkosenniemi)、蟻塚座り世界選手権(このページによるとアリ塚に裸で座ってたかる蟻に耐える時間を競う...らしい)、国際雪合戦(Kemijärvi)寒中水泳大会(毎年開催地変更)、などなど。こことかこことかここなどにもいろんな競技が列挙されています。調べだしたらきりがない。よくぞこれだけ思いつくものです。

私が住むオウルも例外ではありません。最長70KMのコースに市民が挑むオウルタールスキー大会(3月)、48時間耐久で穴釣りに挑むオウル氷上穴釣りマラソン(3月)、24時間耐久で36ホールをまわるマラソンゴルフ(7月)...なんか耐える系ばっかりですが、よくぞ馬鹿なことをと感心します。友人の話では、わざわざ穴を開けた浮きを浮かべて「夏期穴釣り大会」なんてのを開催した人もいるとか。どこまでもいろんな事を思いつく人たちです。

そんな数々のイベントの中でも、今日はオウル最大の世界選手権、エアギター世界選手権。エアギター、すなわちギターを弾く「ふり」をいかに"COOL"に出来るのか。1996年に始まったこの大会も今年で11回目。今や世界中から猛者が集まってくる大会です。これまでに12カ国に国内団体が組織され、各国で予選大会が催されている状況です。

日本はというと、2005年6月に公式国内団体が設立され、2006年から本格的な国内予選が催されることになりました。当然目指すは、エアギターの聖地オウル、そして優勝賞品の「本物のギター」(フィンランド語ではOikeakitari(正しいギター)って、おいおい。じゃエアギターはやっぱり間違えているのかい)。

昨年、金剛地武志が三年連続世界4位になり、その様子が日本でもテレビ放映されていました。今年は面白いかもなぁと言うことで、早々と予定に入れて、ずいぶん前から心待ちにしていたイベントです。日本の公式団体のページを見ると、なんと3人も出場とか書いてあり、ニュースサイトを見ていると、どうやら吉本興業の若手芸人が出場するとのこと。さてさて。

オウルでは、まず、前日の7日に45Specialという市内中心部にあるクラブで予選が開かれ、ここを通過した人たちが決勝に進みます。国内団体の代表者1名+昨年優勝者+予選通過者の17名が決勝で争うという構図です。

45Specialは普段から若者が集まって、踊って酒を飲むクラブ、というか、ディスコ?、ダンスホール?の様なところで、普段から友人達がたむろしています。私も5年前はほぼ毎晩のようにここに入り浸っていました。今回は妻連れですのでほぼ出かけていませんが。

というわけで、45Specialはオウルっ子にとっては馴染みの場所、しかも、45Specialは小さな店ですので、出場者のすぐ近くでパフォーマンスが見られて一体感も強いと言うことで、通は予選から参加するのだそうですが、私は仕事の都合でここには参加できず。友人の何人かはこの日でかけていきました。

で翌朝、予選の結果を調べてみたところ、日本国内団体の公式ページに「ダイノジ・おおち、予選を1位で通過」とあります。通過したのは日本人2名、フィンランド人2名、オーストラリア人1名、落ちたのが、日本、スペイン、フィンランド、ドイツ、イタリア各1名。え、予選から3人も出てるの? しかも、金剛地は直接本戦出場だから、ちょっと日本人出過ぎじゃないの? という感じです。

テアトリア で、今日は決勝。事前に手に入れた10€也のチケットには「7時半開場」とだけ書かれています。ま、いってみようと言うことで、7時半頃に決勝開場のClub Teatria(クラブ・テアトリア)へ。私が住むリンナンマーから町を挟んで反対側のリミンガントゥリ地域にあるこのクラブは、Atria(アトリア)の肉詰め工場をクラブに改造したもので、オウルで一番の大箱。2005年7月に出来た比較的新しい施設です。19番のバスに乗って、地図を見ながらバスを降りると、ありました、バス停のすぐ横になんだか裏寂しい風体の建物が。いかにも元工場という感じです。

入り口は しかも入り口がよく分からない。住所に従って、Härkätie (ハルカティエ:牛通り (汗) )に入って、1番地と思われるフェンスの間に侵入。広い工場の中に紛れ込みます。場末感たっぷりの工場を、冷たい雨に打たれながら、「どこよ一体」と探していると、工場の奥の方に...。

あった あった、あった、ありました。Club Teatria。これでは分かりません。まったく。入り口の横には"Air Guitar World Championship"の横断幕(トップ写真)が。間違いなくここが入り口です。

中にはいると、フィンランドの求めるセキュリティ規定のために上着を預けなければいけません。我々はちょっと失敗して、上着の下は薄着でした。普通のフィンランドの建物ならば、室内は十分暖められているので問題ありませんが、なんと言ってもここは元工場。十分暖まっておらず寒い寒い。

T-sharts 入り口にはいると、記念品としてこの長袖Tシャツが無料でもらえるので、とりあえずこれを着て寒さをしのぎます。

会場 しかもなんだか会場の中は、がらーんとしています。まだ何もかも準備中。後で知ったのですが、イベントそのものは8時半からの設定で、9時半からコンテストというスケジュール。しかも、途中MCが入って、8時半から演奏予定だった前座のバンドが飛行機の都合で時間までにたどり着かず、キャンセル。

待ちぼうけ ということで、みんな仕方がないから後ろの方で、お酒を飲みながら待っています。ま、コンサートなんてこんなもんなんでしょうけど。

やがて、日本人のテレビクルーと思しき一団や、ドイツ人のテレビクルーと思しき一団が、あっちやらこっちやらを撮影し始め、なにやらスタッフと相談などしています。そろそろ始まるかなと思ったら...

開始 イベント開演。前座無しなので盛り上げに何となく苦労していますが、とりあえずルール説明の上でイベント開始。司会のお兄ちゃんはどうも英語がそれほど得意でないらしく、でも、日本人とドイツ人のスタッフが来てるので、ドイツ語(一緒にいた友人に言わせると文法はめちゃくちゃだったらしい)と日本語(「ありがとう」だけ!!)を使って、場を盛り上げようと必死です。それにしても段取りが悪いこと。なんだか最初の方の出場者がかわいそうになるぐらい、手順が整っていません。リハーサルをちゃんとしてなかったんだろうなぁと言うのが、丸わかりです。昨年は10周年という事で、MTVのパーソナリティが司会をしていて非常にスムーズだったと言うことで、去年も来ていた人たちはちょっと不満顔です。極めつけは、"アプロウゼ!"というシャウト。一瞬会場が止まりましたが、会場の人たちは、"Apprause!!"と言いたかったに違いないと言うことに気がついて拍手。フィンランド語なまりもここまで来ると、芸術です。

イベントは進んで、金剛地武志が出場。4年連続出場の金剛地には地元ファンが多くついているらしく、会場には「たけし〜」の黄色い声がフィンランド人女性から飛び交っていました。友人のフィンランド人女性も「何年も来てくれているから、親近感があってね」とのこと。そんなもんなんでしょうね。やっぱり一度しか来ない人は嫌われるようです。毎年来ている人たちは、それなりの支持を集めています。

しかし、圧巻はやっぱり昨年の優勝者のデストロイヤー。今年は女装しての登場で、ちょっと会場が引き気味だったのが失敗ですが、やっぱり手元に弾いているギターが「ありますよね〜」(みうらじゅん)です。確かにそこにギターがあるのが見えます。

そして、話題の吉本芸人ダイノジ・おおちの登場。昨日の45Specialで既に客の心をがっちりつかんでしまっていたんでしょう。「ダイノジィ」とMCが紹介した瞬間から、会場の空気が一変します。みんな期待感に満ちている感じです。演奏が始まったら、会場が一体になっていきます。ギターの演奏そのものの問題と言うより、パフォーマンスの「組み立て」と「間」がものすごくイイ。他の演奏者は、最初のパフォーマンスこそ盛り上がるものの、1分間続けて会場を盛り上げ続け事が出来ず、何となく「中だるみ」間が出てしまっているのですが、そこは舞台で揉まれた吉本芸人、見事なまで1分間が無理なく過ぎていきました。得点が出る前から、周辺のフィンランド人に「今のJapanilainenの演奏は最高だったな」と握手を求められる始末。当然一位の高得点です。

決勝は2ラウンド形式で、自分で編集してきた曲を使った一回目のパフォーマンスで17人の出場者が10人に絞られ、第2ラウンドでは、その場で全員に与えられた課題曲を使ってパフォーマンスをします。パフォーマンスは10位から順番。勢い、第一回目で第一位を獲得したダイノジ・おおちは10回演奏が聴ける上に、他人のパフォーマンスも見ることが出来る、有利な立場です。課題曲は、今年ユーロビジョンソングコンテストで優勝した、フィンランドの英雄LORDIの最新シングル、"Who's your Daddy"。

そういえば、昨年の優勝者デストロイヤーも予選からの勝ち上がり組。やっぱり、観客と一体になって演奏する時間が長い、予選からの勝ち上がり組の方が、もしかしたら有利なのかも知れません。

二回目のダイノジ・おおちの演奏は、無難な立ち上がりで淡々と演奏パフォーマンスをこなし、最後に一気に盛り上がるスタイル。この辺り、最初からエンジン全開でとばして、途中で息切れする他のプレーヤーとは明らかに組み立てが違います。流石吉本芸人。盛り上がってくるとパフォーマー本人も乗ってくるのか、最後の方は、見事にギターがそこにあるのが見えるようになりました。演奏の最後はギターを膝で二つ折りにするパフォーマンス。その瞬間、私の目には間違いなく、折れるギターが見えました。

審査員も机を叩いて笑っていましたが、得点は、各6点満点の所を6点満点を含むほぼ最高の得点で優勝。私もフィンランド人からいくつか祝福を受けました。ちなみに審査員は、イギリスの音大のギターの教授を含む6人。その採点は比較的厳正で、全てのパフォーマンスについて見ていて納得の行く得点でした。

優勝賞品授与 優勝賞品のギターをもらってよろこぶ、ダイノジ・おおち、会場が暗い上に、遠くに陣取っていたので、写真がぶれてしまっていますが。

フィナーレ 最後は出場者全員で、エアギタープレー。会場も一緒になって盛り上がります。ここでも、吉本芸人は、舞台の前に出て目立とうとする他のプレーヤーを尻目に、後ろの高いところにあがって一番上手に目立っていました。やっぱりさすがだなという感じです。

帰りのタクシーをシェアした、ラップランドから来たという姉妹は、「彼はエアギターの練習はそれほど積んでなかったようだけど、キュートだった」との評価。フィンランド人全体が、同じ印象を受けているんだろうなと言う気がしました。フィンランドは長らくこの大会で優勝から遠ざかっています。フィンランド人の友人が言っていたように"special training camp"を組んで、眠っている才能を掘り起こさないと、勝ち目はないのかもしません。

家に帰って、ダイノジ・おおちのブログを見ると、「エアギター世界一!」の文字が。何となくうれしくなって、「最後のパフォーマンスは折れるギターが見えました。」と書き込んでおいたら、日刊スポーツの記事にそのまま取り上げられていて驚きました。

秋の景色 大イベント、エアギターもこうして終わり、発祥の地であるフィンランドのオウルという村(エアギタージャパン オフィシャルページ、フィンランド5位12万人の人口を誇る大都市を捕まえて、失礼な!)は、冷たい雨が降り続く秋を迎えます。