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研究トピック: 福祉情報工学

情報工学技術を適用することで、障害者の日常生活支援を行うシステムの開発研究を行っている。主なトピックは下記の通り。


手話情報学

手話は音声言語とは独立した言語構造を持つ独自の言語である。

例えば下記に示す日本手話の例では、「うなずき」「まゆあげ」などを用いて文法的指標を導入し、日本語には存在しない「関節代名詞文」を構成している。

関係代名詞文の例

また、右手で「家」、左手で「人々」を表して「家族」を表出するように、音声言語では決して実現することの出来ない、二つの単語の同時提示による合成語の表出なども手話では普通に行われる。

したがって、ろう者(手話を母語とする聴覚障害者)の情報的支援のためには、手話を的確に計算機上で扱う技術開発が必須である。本研究では、下図に示す究極の手話コミュニケーション支援環境の構築を目指し、手話の計測、伝送、合成手法の研究と、これを用いた各種アプリケーションの開発を行っている。

手話情報学の構造
  • 主な研究成果
    手話伝送システムS-TEL(黒田知宏:1994〜1998)
    簡易型モーションキャプチャシステムを構築し、人体の身振り情報を送信して、「アバタ」と呼ばれる人体モデルをこれに併せて動かすことで、アナログ電話回線を用いた手話の双方向通信を可能とした。(紹介ビデオ(AVI:180Kbyte)) 手話伝送システムS-TEL
    指文字教育システム(田畑慶人:1998〜2001)
    「有意な指姿勢」のみをマッチングするための、手形コード体系、及び、マッチング手法を開発し、これを用いて「誤り訂正機能」を導入した、指文字教育システムを実現した。
    指文字教育システム
    程度修飾語付き手話アニメーションの自動生成(村上満佳子:2000〜2002)
    例えば「とても大きい」は単語「大きい」の手の移動距離を長くすることで表現するなど、手話では「とても」などの程度修飾語は後に続く被修飾形容詞の動きを変化することで表現される。本研究では形容詞の本質的な動きを出来るだけ少ないパラメータで表現し、これを変化させることで程度修飾語を自動生成し、「手話らしい」手話アニメーションの生成を行った。
    手話の程度修飾
  • 主な発表論文
    • T.Kuroda, K.Sato, K.Chihara: "S-TEL: Avatar Based Sign Language Telecommunication System". International Journal of Virtual Reality, 3(4):21-17 (1998)
    • 田畑慶人, 黒田知宏, 眞鍋佳嗣, 千原國宏: "手型認識を用いた指文字教育システム". 教育システム情報学会誌, 18(2):172-178 (2001)
    • M. Murakami, T. Kuroda, Y. Manabe, K. Chihara: "Generation of Modifier Representation in Sign Animation". Proceedings of ICDVRAT, pp.27-32 (2002)
  • 主な外部資金
    • 黒田知宏, 聴覚障害者間コミュニケーション支援に関する研究. 財団法人テレコム先端技術研究支援センタ, SCAT研究奨励金 (1996-1997)
    • 黒田知宏, アバター型手話伝送に関する研究. 財団法人電気通信普及財団, 調査研究助成(1999-2000)
    • 村上満佳子, 携帯電話機を用いた視覚・聴覚障害者のための支援システム,文部省科学研究費若手研究(B)(2002-2003)
    • 黒田知宏, 人体座標系の創出 -二頭身アバタによるモーションキャプチャ-. 日本学術振興会, 科学研究費補助金 若手(A) (2005-2006)


創発型歩行者ITS

現在の道路システムや、ITS(Intelligent Transport Systems)などの研究中の道路システムは自動車を中心に設計されているため、交通弱者にとっては決して良い環境を実現するものではない。

この環境下で米国のPedSMART や、国土交通省が進める歩行者ITSなどの研究プロジェクトが進められているが、これらのプロジェクトでは、「歩行者に情報を知らせる」ことのみに重点が置かれ、交通弱者に「問題に近づかせない」消極的なバリアフリー環境実現しか実施出来ていないばかりでなく、情報過多によって被支援者を却って混乱させる可能性もある。

本研究では、ITSと同様に、街角に埋め込まれた各種街角端末からなる、Ubiquitous Computing (八百万のコンピュータ)環境と、歩行者が保持する知的なWearable Computerとが互いに協調して、バリアフリー歩行環境を生み出す環境構築の研究を進めている。

本研究では、下図に示す、1)都市全体に広がる代用感覚、2)エスカレータのon-demand切替などによる交通環境の動的再構築、3)必要情報の提示による人的トラブル事前回避システムの三つの情報サービスの実現を目指して、端末、環境システムに関する研究を行っている。

歩行者ITSのビジョン1 歩行者ITSのビジョン2
  • 主な研究成果
    状況推定機能付き電子白杖(立石敏隆:2000〜2003)
    下向きギャップなど、白杖での検知が困難な歩行バリアを検出し、危険な場合にのみ通知することで、情報過多による被支援者の混乱を回避しながら的確な歩行支援を行う電子白杖を構築した。本システムでは3点式のアクティブ距離計測計と、空間を壁と床に大別して周辺状況の推定を行う「壁床戦略」を構築することで、ロバストな状況推定を実現している。
    E-Cane E-Caneの計測原理
    歩行者流の計測・可視化システム(前田宏二:2000〜2002)
    歩行困難を持つ高齢者などが歩行者の波を避けられるように、歩行者の流れを計測・提示するシステムを構築した。本システムでは魚眼レンズを装用した街角端末の分散協調によって、的確に歩行者流の計測を実現している。
    歩行者流計測
  • 主な発表論文
    • 黒田知宏: "情報技術がもたらすバリアフリー生活環境の将来性". 技術予測レポート3巻;医療・健康・高齢化社会への対応技術編, pp.33-41, 日本ビジネスレポート (2000)
    • T.Kuroda, H.Sasaki, T.Tateishi, K.Maeda, Y.Yasumuro, Y.Manabe, K.Chihara: "Walking Aids Based On Wearable/Ubiquitous Computing - Aiming At Pedestrian's Intelligent Transport Systems -". Proceedings of ICDVRAT, pp.117-122 (2002)
    • Y.Yasumuro, M.Murakami, M.Imura, T.Kuroda, Y.Manabe, K.Chihara: "E-Cane with Situation Presumption for the Visually Impaired". UI4ALL, Universal Access Theoretical Perspectives, Practice, and Experience, Springer LNCS 2615 Revised Papers, pp.409-421 (2003)
    • 村上満佳子, 立石敏隆, 井村誠孝, 安室喜弘, 黒田知宏, 眞鍋佳嗣, 千原國宏: "視覚障害者のための状況推定を導入した電子白杖の構築". システム制御情報学会論文誌, 16(6):287-294 (2003)
  • 主な外部資金
    • 眞鍋善嗣 (分担): 創発型歩行者ITS. 日本学術振興会, 科学技術研究費補助金 基盤(C) (2001-2003)


その他の研究成果

その他、視覚障害者・聴覚障害者のメディア支援という観点から、下記のような研究を行っている。

  • 主な研究成果
    聴覚障害者会議参加支援システム(志方龍:1999〜2000)
    聴覚障害者は日常生活で口話(所謂読唇術)を学んでおり、日常生活における1対1の会話ではとくに困ることはないが、複数人が同時に参加する会議の席に参加する際には会話の進行の補足が困難である。本研究では全周型カメラと音声認識装置を用いて、複数人の会話を適切にグルーピングして視覚化し、聴覚障害者の会議参加を支援するシステムを構築した。
    会議支援システムの構成
    視覚障害者用買物支援Wearable Computer(村上満佳子:2001〜2002)
    視覚障害者はスーパーマーケットなどでの買物では、商品の置き場所、鮮度、価格など、我々が一般的に視覚で得ている情報を取得することができないため、商品を触って鮮度を確かめるなど、商店側にとっても好ましくない行動を行うことがある。本研究では、商品に取付られた識別票(バーコードやRFIDタグ等)を参照して、POS等から情報を取得し、音声で情報提供を行う視覚障害者用買物支援システムを構築した。
    買い物支援システムの概要
  • 主な発表論文
    • 志方龍, 黒田知宏, 眞鍋佳嗣, 千原國宏: "聴覚障害者のための会議支援システム". ヒューマンインタフェースシンポジウム論文集, pp.197-198 (2000)
    • M.Murakami, Y.Yasumuro, T.Kuroda, Y.Manabe, K.Chihara: "Shopping Support System for the Blind Using Barcode". 7th ERCIM Workshop - User Interfaces for All, pp.207-208 (2002)
  • 主な外部資金
    • 村上満佳子, 携帯電話機を用いた視覚・聴覚障害者のための支援システム, 文部省科学研究費若手研究(B)(2002-2003)
  • 主な特許
    • 黒田知宏,村上満佳子: 商品識別票を利用した視覚障害者用商品案内音声ガイド. 特願2000-356778, 特開2002-163284
Last modified Tue Sep 28 15:08:17 2021