ノールカップ(Nordkapp / North Cape)はご存じの通り、ヨーロッパの北の果て。ノルウェーの先端にあります。ノールカップの北緯は71度10分21秒。オウルがちょうど北緯65度ですから、地球の緯度6度分を週末で一気に行こうと言うことになります。しかも今回は車で。現地人に「ノールカップに行きたいんだけど、どう行けばいい?」と聞くと。「あ、すぐすぐ、車で10時間はかからないだろう。」という返事(^^;;。飛行機の便もオウルからでは非常に悪いこともあり、すっかりこれを真に受けて車で行くことにしました。これがそもそもの誤りだったような気がしますが。
当初はオウル大学に文部科学省海外留学制度を利用してやってきた、奈良先端大(私の本務地)の同じ研究室の学生さんに、セカンドドライバーとして活躍してもらう予定だったのですが、免許を取ってこの方オートマチックしか運転したことがないとのこと。冬には道路が凍り付くフィンランドでは、オートマチックのレンタカーは珍しい存在ですので、当然今回借りた車もミッション。彼に試しに運転してもらいましたが、一度もクラッチが合わない。なれないクラッチ車で右側通行するというのは、やっぱりちょっと頼めない。仕方がないので一人で全線運転することに……、これが二つ目の計算違い。
この二つの計算違いが重なって、大変な旅行をすることになってしまいました。まま、どう大変だったかは追々…。
昨日、5月8日(金)の仕事終了後、日本人5人で車一台に乗り込み、いざ出発。オウルから100km海外沿いに北へ進んだケミ(Kemi)の町へ進みました。時間がないので、少しでも北へ進んでおこうと言うことです。
今回のパートナーは、紺のVOLVOのワゴン。クラッチミートする場所が異常に高いものの、パワーも充分で非常に運転のしやすい車です。フィンランドでは、ボルボはトラクター、サーブはスピード狂の車と言うぐらい、非常に一般的な車です。後ろの席に三人は少しきつかったようですが、まま車としては御の字です。 |
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英語の今ひとつ通じない、頼んだものの出てこないレストランに苦しみつつケミのホテルで一夜を過ごし、朝ご飯を食べて午前7時にいざ出発。ケミから一路内陸のロバニエミ(Rovaniemi)を目指します。
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ロバニエミは、ラップランドの玄関口。ラップランド最大の町です。ケミからしばらく森の中だけを延々と抜けてきましたので、大きな町が出てきたぞと言う感じになります。 |
ロバニエミから北へ8キロ進むと、北緯66.33度、北極圏です。北極圏にはいるところに、ご存じサンタクロース村(Joulumaa)があります。私の昔のボス、Mr. Santa Claus (Joulupukki) の住んでいるところです。
ロバニエミ側からサンタクロース村に向かうと、"Santa Park"の看板が出てきますが、ここは無視して通り過ぎましょう。"Santa Park"へは、サンタクロース村からバスが出ていますので、サンタクロース村に車を停めた方が得策です。サンタパーク自身もあまりお勧めでもありませんし。 |
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サンタクロース村には、サンタクロース郵便局の本局があり、ここで自分の書いた絵はがきをクリスマスに着くように送ることができます。もちろんサンタクロースからのお手紙を送ってもらうように申し込むこともできます。サンタクロースと写真を撮ることも可能です。サンタクロースは十数カ国語を操りますので、ちゃんと日本語で挨拶してくれるはずです。
いくらサンタクロースが気さくだからと言って、サンタクロース役の本名を聞き出さなくてもいいと思うんだけど……。(^^;;
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サンタクロース村で一遊びして、ソダンキュラ(Sodankyla)で昼食、イバロ(Ivalo)、イナリ(Inari)と給油休憩を撮りながら、一路北を目指します。
森と湖が広がる、美しいフィンランドの森の木々は、北へ向かうに従ってだんだんと低くなっていきます。 |
ラップランドの道は、全く人気のない森の中を、淡々と一直線に進んでいきます。
イナリまでは、バス停があるとその奥に森に隠れるようにして人家がありますが、人を見かけることは滅多にありません。北に進むに従って、すれ違う車の数もぐっと減ってきます。 |
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かといって、気を抜いて運転するわけには行きません。ロバニエミをすぎると、すれ違う車や人よりも、遙かに沢山のトナカイに出会います。トナカイ(Poro)は体が大きいですから、衝突すると車の方もただでは済みません。しかもトナカイには必ず所有者がいますから、事故を起こせば警察にちゃんと届け出ないといけません。 |
そんなことを聞いていると、突然飛び出す野生のウサギなどに急ブレーキを踏む羽目になります。本当にトナカイとウサギに何度ブレーキを踏まされたことか。
地元の人はやはりなれているようで、前の車が速度を落とすとたいてい道ばたにトナカイがいます。白い土の上でゆっくりと動いているトナカイを時速100km以上で疾走する車から発見するのは至難の業なのですが、地元の人にはすぐ目に付くようです。
ラップランドでは、すれ違う車のパッシングは、警察かトナカイがいることを示しています。ま、どちらにしてもスピードを落とせということですが。
イナリをすぎた少し先で、直進"Norja"(ノルウェー)という看板を無視して進路を左へとり、ノールカップに一番近いフィンランド=ノルウェー国境、カリガスニエミ(Karigasniemi)を目指します。
この角を曲がると道の両側はさらに荒涼とした景色になり、そして遠くにノルウェー側のスカンジナビア山脈が見えてきます。目指すはあの雪山の向こうです。 |
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いつになったら辿り着くんや?と思いながら、淡々とまっすぐな道をひたすら走っていくと、突然フィンランド・ノルウェー両国の旗が立った建物が現れます。フィンランド・ノルウェー国境のフィンランド側のゲートです。
ここで建物から出てきたお姉さんの指示に従って車を止めると、「すいませんが、旅行者の方にアンケートを取っていますので、協力していただけませんか?」とのお話。北欧の国境では殆どパスポートコントロールはありません。アンケートの内容は、まさに旅行者向け。「フィンランド国内でいくら消費されましたか」とか聞かれても、3ヶ月も経ってるのにわかるわけがありません。 |
アンケートに答えて車を少し進めると、小さな川を渡ります。ここが本当のフィンランド・ノルウェー国境。ノルウェーにはいるととたんに川の袂から家が建ち並んでいます。ノルウェー側にはゲートはなく、すぐにカラショク(Karasjok)へと続く町並みが始まります。久しぶりの人の気配にほっとします。
カリガスニエミから目指すノールカップまでは約250km。カリガスニエミからカラショク、そしてヘルシンキやロバニエミから飛行機で入ってこれるラクセルフ(Lakselv)までは、順調に車が進みます。
当然ノルウェーに入ったわけですから、通貨は当然ノルウェークローネになりますが、このあたりではたいていの場所でフィンランドマルカが使えます。もちろん、100FIM=130NOKというあまりよくないレートでの換算ではありますが。今日は土曜日ですので銀行などはお休み、受け入れるしかありません。コーヒー一杯をクレジットカードで買うわけにも行きませんし。
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問題はここからの残り150kmでした。ここまではほぼ平均時速120km程度で進んできましたが、ラクセルフから先の道は海岸沿いの曲がりくねった道。時速70kmを出すのがやっとです。しかも海岸側は断崖絶壁でガードレールも無し。大型バスなどが向こうから来ると肝を冷やします。 |
さらには途中で舗装の全くされていない道路にも出会います。冬の間に壊れた道路を補修しているのでしょうが、こんな道に出会うと、「道間違えたんちゃうか?」と不信感が募ります。道ばたに時々現れる滝やトナカイが心を慰めてくれますが、時間との戦いで走っている私としては気が気ではありません。 |
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気をもみながら、それでも一本道なことを信じて車を進めると、いくつめかのトンネルでようやくずっと下向きの道に出会います。ノールカップは厳密には半島の先ではなく、半島の先の島の一番北の端にありますので、海底トンネルをくぐっていかなければなりません。 |
トンネルを抜けると、一面雪に覆われた荒涼とした大地に出会います。北に来たぞという気になります。 |
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ホニングスボーグ(Honingsbag)を右手に見送り、さらに広量とした大地の中を突き進むと、ようやくNordkapp 500mの文字が。ゲートで一人一泊二日175NOKのチケットを購入し…… |
キャンピングカーの溢れる駐車場に流れ込んで、フィンランド時間午後8時半、ようやくノールカップ到着。ケミを朝7時に出発して13時間半、897kmを走り抜いてきました。あーしんど。
そのうち3時間はノルウェー領内をほぼノンストップで走っていたわけですから、いかに道が悪かったかわかろうというものです。 |
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ノールカップでは、「到着証明書」を購入。当然ノルウェー語版を買います。考えてみればつまらないおみやげの最たるものですが、今回の証明書は自分で走り抜いて手に入れたものなので、重みが違います。
しゃれの効いたものを買うならば、同行した学生さんの購入したノールカップ・カップ(ノールカップの絵の描かれたマグカップ)でしょうか。 |
ノールカップのレストランで夕食。ここのレストランは予約制だったそうで、そんなことも知らずにやってきた私達は、カフェで適当にものを頼んで、予約制でない部分のいすに座って食事を済ませました。
窓からは北の海が望め、遠くに水平線の上を東に向かって進む太陽を見ることができます。 |
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地球儀のマークにしてもそうですが、だいたいこういうところには訳のわからないモニュメントがあるものです。この写真は7つの大陸の子供たちの碑7大陸の子供たちが描いた絵が平和を祈念して仲良く並べられている……のだそうです。
どれどれと近寄ってみてみると、ん? あゆみ?? 日本人の女の子の絵が一枚あります。ちょっと待て、日本は島国だぞ??。隣にはタイランドの子供の絵もありますので、「アジア」というわけでもなさそうです。7枚ありますから、きっと南極大陸の代わりなんでしょうねぇ。でも、南極大陸なら、昔からずっと領有権を主張しているアルゼンチンの子供の絵でもおいておけばいいものを……。 |
またこういうところには、訳のわからない習慣が生まれるものです。日本でも灯籠の地蔵さんの鼻の穴に石をうまく詰めることができれば幸せになれる(北野天満宮)とか、いろんなのがあります。
ノールカップ近辺でやたらと目に付くのが、この石塔。まるで賽の河原です。ついでですから私も一つ作ってきましたが、あれは何だったんでしょうか。海でなくなった人などを悼むために作られているのかなと言う気もしなくはありませんが、半分くらいは私のような観光客の仕業なんでしょうなぁ。 |
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フィンランド時間午後10時半、ノルウェー時間午後9時半、まもなく"北中"しようという太陽を背をむけて、ノールカップを出発。今日の宿はラップランドの中心、イバロに取っています。あと400km前後の距離を走っていかなければなりません。 |
途中2回のトイレ休憩を挟んで、一気にイバロへ。走っている間中、太陽は背中側、つまり北から低く差し込んできます。そらはほの暗いものの、夜中のドライブをしているという感じは全くありません。オウルも完全に暗くなることはなくなっていますので慣れているはずですが、何となく不思議な感じがします。
淡々と走り続けて、午前3時半、1205kmを一日で走破して、ようやく目的地のイバロに到着。ホテルに着いたらあとは気絶するように寝こけました。 |
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