Luento Ykkonen

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第一回講義

2006年4月11日火曜日

今回私がオウル大学に呼ばれた主な理由は、今年から新たに開設することになったMobile Augmented Reality (通称MAR)という講義シリーズで講義を担当することです。本日はその第一講です。オウル大学は三学期制をとっており、MARコースは第三学期にセットされています。フィンランドの学制は日本と異なり、5年間の修士課程と3年程度の博士課程から成り、学習内容からすると、修士課程3年生は日本の学部4回生、あるいはその上に匹敵する程度の設定がされています。修士課程をでた学生は会社に入ってプロジェクトを自分で企画・立案・遂行出来る立場でなくてはいけないというのがここの是のようで、その意味では日本の修士より遙かに厳しいかもしれません。修士向けの「考えさせる」講義ですから、MARは前半数回で基礎の話をした上で、関連文献をベースに議論をさせるセミナー形式を想定しています。加えて、情報処理科学科(TOL)の講義組み立てに従って、講義とセットになった実習も計画する必要があります。講義・セミナー・実習・試験と全てそろわないと単位が出ないわけですから、なかなか大学の講義はハードです。一方、学生には大きな裁量権が与えられていて、講義の前後関係は設定されていますが、年度ごとに指定された講義を全部受ける必要はありません。当然卒業認定単位などの縛りはありますが、基本的には自分に必要だと思う単位を揃えればよいシステムです。また、例え講義登録していなくても、教員に評価をもらえば単位が与えられます。大学生は大人ですから自立が基本、手取り足取りの日本とはだいぶ様相が違います。講義は「エンターテイメント」であっては成らず、「タフで退屈」でなければならないと学生に最初にすり込むようですし、学生もその観点で教員を評価するようで、この点でも日本とは大きく異なっています。

ということで、トップの画像のようなe-Learningシステムも用意し、この講義を共同で担当する同僚と打合せをして、一回目の講義は軽くイントロと学生の興味の聞き出し、何をして欲しいかを考えてもらうことに置こうと決めて、いざ講義室へ。講師二人で部屋に入っていくと、待っていたのはストリーミング用の講義ビデオ収録のためのビデオカメラと、学生....一人。...え、一人?...なんとまぁ、学生一人に講師二人カメラ一台と何とも豪華な講義になってしまいました。いやはや大笑いです。

これには実は裏話があって、事務方の手違いで、MARコースは3月はじめから始まると間違えたアナウンスがあり、3月はじめに学生が講義室に来て、講師が(当然)現れず、かなり怒った学生数名から同僚に電話があったりしたようです。そりゃそうですわなぁ。当然同僚は慌てて事務方に訂正を依頼しましたが、事務方は十分な訂正をせず(自分たちのミスではないとまで仰ったそうです)、情報・電気・InfoTech(オウル大学の情報関係の産学共同機関)に講義開始のアナウンスを依頼したものの、アナウンスが行われるべきように行われなかったらしく、ホームページを確認してみても、学生向け掲示板にアナウンスは無し。真偽のほどは明らかではありませんが、4月に試験が行われるなどという追加誤情報が事務方から飛んだという噂もあり、これだけ情報が錯綜したら、学生も嫌になるでしょう。しかもビデオテープをとって、ストリーミングで授業がいつでもみられると成れば、講義室に行って、その場で質問されたりすることを考えれば、家で講義をみた方が得と考えても仕方ありません。実際別の同僚の講義では、試験を受けた人数は二十人程度だったにもかかわらず、最終回は聴講者0で、ビデオカメラに向かって講義したという話ですから。確かに3年生にもなると学生と会社員の二足のわらじを履いているのが普通ですので、彼らのためには最大限の便宜を図ってやる必要がありますが、ビデオ撮りというのも考え物です。日本でもe-Learning花盛りで、ストリーミングと資料はいつでもオンラインで手に入る世の中になってきました。大学によっては、パスワードなしで講義資料へのアクセスを出来るようにしておいたら、「権利を買っている学生とそれ以外に差をつけなくてどうするのか」と大変なお叱りを受けるような場合もあります。講義がオンラインで見られる物だけで組み立てられるのならば、そのうち講義室も我々教員も不要になるんでしょう。講義ってそういうものでもないと思うんですけどねぇ。

それにしても、今後このコースはどうなるんでしょうか、かなり不安な船出です。