4月18日 講義


いくら「パチもん」とはいえど、教授という肩書きがついている以上、講義を避けて通るわけには行きません。私もオウル大学で数回の講義(+夏期コース一つ??)をすることを義務づけられています。

この日はその内の一つ、「Virtual Reality」コースの講義の内の一回分、「Avatar, AR, Wearable」という、まぁ、何とも範囲の広い講義を行いました。これだけ範囲が広いと、高々1時間半の講義では一つ一つの基礎技術の詳細に入っていくことも出来ませんので、表面を撫でながらキーワードを落としていくという形式の講義をすることを余儀なくされます。それでも1時間半を軽くオーバーしてしまいましたが。(^^;;

内容はともかく、この日の講義は17時半開始。私ともう一人の教授で1コマずつ講義を行って終了が20時過ぎ。どうしてこんなに遅い時間になるかというと、この講義は一般学生と社会人学生を同時に対象として行われているからです。ただフィンランドではこの時間に講義を行うことはそう珍しいことではないそうです。

しかもこの講義は、オウル大学の講義室だけではなくて、大学に設置されたテレビ会議システムを使った遠隔講義も兼ねています。オウル大学はフィンランドの北部半分の教育を担当しており、沢山のサテライトキャンパスを持っています。こういったサテライトキャンパスをISDN3回線分を使って接続し、遠隔講義を可能にしているわけです。

サテライトキャンパスで講義を受けているの、主にその土地周辺で働いている人たち。フィンランドの北部は交通の便がいいわけではありませんので、近くのキャンパスで遠隔で講義を受けられるようなシステムが整備されているわけです。当然遠隔地で講義を受ける人たちも、オウル大学で普通に講義を受ける人たちと同等の単位を取得出来ます。オウル大学の中にも、働く人を対象にした土日や夕方以降のみのコースも沢山設置されています。それだけ仕事をしながら勉強すると言うことが当たり前だと言うことですね。

それにしても複数の場所を相手に講義をするというのは本当に難しい。今回の私の講義ではオウル大学の講義室とRaaheという所のサテライトキャンパスとを結んで講義をしたのですが、まずマイクの関係で席から一歩も動いてはいけない。そこに座って淡々と喋らないといけないわけです。普段からこういう講義法ならばいいのですが、どちらかというと教壇で「踊る」タイプの私とすれば手足を縛られているようなもので、どうして良い物やら困ってしまいます。

しかも、身振りを使って説明するためにはカメラのスイッチを切り替えて、かつカメラと講義室の学生の両方に向かって見えるようにする必要があります。今回の講義ではこの切替システムがうまく動かず、身振りを使わず口頭だけで説明することを余儀なくされました。そうでなくても英語の講義だから言葉探しが大変なのに……。

で、どうしても目の前にいる学生に向かって喋ってしまうんですよね。テレビモニタで遠隔地の学生の様子も見えているのですが、話に熱が入ってくると、いつの間にかテレビモニタに気を配るのを忘れてしまいます

もう一つ遠隔講義をして気づいたことは、話す内容が回線障害で伝わらないことがあるので、話すことはすべてスライドに記載しておく必要があるということです。私の場合はキーワードしか書いていなかったためにどうも遠隔地側の学生はわかりにくかったようです。最初こちらの教授の講義録(フィンランド語 (^^;; )を「こんな流れで講義をするから、参考にしてね」と渡されたときには、「何でこんなに字だらけなんだろう。退屈じゃないのかぁ?」とおもいましたが。必要に迫られてこういう形になっているようです。

それにしても、これだけのサービスを提供しているにもかかわらず、聴講学生数の少ないこと。合計で10人程度でしょうか。(^^;; これには理由があって、今年のVRコースの講義は学期後半に講義を開始したのだそうです。そうすると昨年(学期最初から開始)100人だった受講生が20人まで落ち込んだそうです。学期後半の講義を取ると、春学期の最後まで講義があることになりますから、季節の良い5月や夏休み前に試験を受けなければいけないので、学生に嫌われるとのこと。

純粋な(働きながら学んでいるわけではない)学生は、卒業単位をそろえることが第一義、講義への興味はその次ですので、自分の休みを減らすような選択は絶対しないというわけです。

私がヘルシンキ工科大学に留学していた頃はフィンランドの景気もそれほどよくなかったので、いい仕事に就くために学位を取ろうとする学生、仕事場での自分の評価をあげるために働きながら勉強しようとする学生、とにかく苦学生が多かったように思いますし、それだけ学習意欲も高かったように見えました。

現在のフィンランドはNOKIA景気のおかげで、情報系の学生であれば、学生の間にNOKIAや関連企業にいい待遇で就職出来るという状況です。ですから、学生が卒業せずに就職してしまうという状況が続いています。学生は卒業する必要性もあまり感じていないわけです。

卒業単位さえそろえばよい。就職のための一ステップとして大学がある。だから不利益を被ってまで講義を受ける必要は無いじゃないか。……どこに行っても学生の行動原理は同じようです


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